失われゆく「昭和」を探し求め、毎週木曜日に日刊ゲンダイに〈しばたゆう〉名義で連載している「そこに昭和がある」(ネット版タイトルは「そこに昭和がある旅」

今回のテーマは「番台のある銭湯」です。

そこに昭和がある旅
公開日:2020/05/22 06:00 更新日:2020/05/22 06:00




昭和を代表するドラマといえば「時間ですよ」。ですよね。

下町の銭湯を舞台にしたコメディー(実際の設定は五反田)で、昭和40年から平成2年までTBS系で放送されました(後半は特番スタイル)。

初期の出演は森光子、堺正章、悠木千帆(樹木希林)さんたち。

天地真理や浅田美代子の出世作としても知られていますね。

そして、毎回のお約束が女湯のシーン。

いわゆるサービスカットってやつですね。

今では信じられない演出です。

昭和はおおらかでよかった……なんて書くと叱られそうですが。

で、そのドラマの銭湯が、確か「番台」だったよな、と思い、今回訪ねてみたわけです。

先日、平成生まれの女性にその話をしたら、「なんですか、それ?」と言われ、なるほど、今やほとんどフロント式。男女の脱衣所の間に店主が座る番台式は、まさに昭和遺産なわけです。

で、どこにあるか?

東京都浴場組合が運営するサイト「東京銭湯」によると、500余りある銭湯のうち番台式は96軒(このサイト、昔からあるけど、本当に丁寧に作ってあって、すばらしい!)

23区で最も銭湯が多い〈銭湯の聖地〉「大田区」でも6軒です(うち1軒は休業中)。

そのうちの一軒、「明神湯」を訪ねてみました。


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詳細は、記事を読んで頂きたいのですが、行ってみてビックリしたのは、「薪」でお湯を沸かしていたということ。

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「薄いベニヤは煙が出るから、うちは太い丸太だけ」

とはご主人の大島昇さん。

薪湯の銭湯も今や珍しいですよね。

実はその先日、客のフリして訪ねていたので、

「だからお湯が柔らかいんですね」

と言ったら、

「それはどうかなあ。俺は毎日入っているけどわからないよ(笑)」

でも、一説には遠赤外線効果で水の粒子がうんぬんかんぬんで柔らかくなるそうですよ。



***

昭和32年に昇さん(石川県出身)の父親が創業。

建物は当時のものですが(すごい!)、風呂場は昭和47年に改装しているそうです。

それでも50年近くも前。そうは見えぬほどタイルはピカピカです。

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それを言って、返ってきた昇さんの答えが次の通り。

「足元が暗くなるからタイルは白。だから余計汚れが目立って掃除が大変。今もたまにタイルを磨く夢を見るよ」

なんかね。意地というか意気というか。プライドを感じますよね。

人間の皮脂は固まると落ちにくいので、営業直後の夜のうちに洗ってしまわないとダメなんだそう。本当に体力仕事です。

脱衣所もまた昔ながらの高天井。

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はかり式の体重計や革張りのマッサージ椅子も昭和を演出。

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縁側からの風が爽やかでした。

***

実は、ロケの名所として有名な「明神湯」。

有名なところでは映画「テルマエ・ロマエ」、ドラマ「ドクターX」。

CMも数え切れませんが、現在OA中なのはサントリーの発泡酒?「BLUE](川口春奈主演)。

サントリーブルー「スッキリうまし」新発売編



番台もバッチリ映っています。

(ちなみにペンキ絵は合成。なんでも絵師さんが著作権を主張しているからだそう。なので私の取材でも写真は撮れませんでした)

知人の動画プロデューサーに聞いたら「ああ、あそこね。何度かロケしたよ」と言うくらい、メディア関係者にはお馴染みの銭湯です。

私はメディア関係者といってもモグリなので、その事は知らなかったのですが、その宮造り&唐破風の外観、高天井の脱衣所、タイルの浴室、富士のペンキ絵、そして番台と、銭湯のイメージをそっくりそのまま体現しています。

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(この看板も、銭湯のイメージを補完刷るため、昔の看板をあえて貼り続けているそう)


つまり、

最初からセットが出来上がってて、ほとんど手を加える必要がない。

こりゃロケしたがるわな。

なので銭湯のご主人夫婦も取材慣れしちゃってて、「どこがロケした、誰が来た」の話が多く、ちょっと辟易するところもありました。

ですが、記事掲載後、女将さんから、うれしそうな声で電話がかかってきて、考えが変わりました。


「三重県の年配の方から”懐かしい”って電話がかかってきて!」

ほう、三重県とな。随分遠い。

「わざわざ電話がしてくれるなんて
私たちも嬉しくって!」

もちろん、地元の常連客からも「載ってたよ」と報告を受けたそう。


何度ロケに使われても、その名前がオモテに出ることは少ないでしょう。

ましてや銭湯を営んでいる人や、その歴史など。

だけど今回、小さい記事だけれど、遠い地の読者が、わざわざ電話したくなるくらい心を動かしてくれたのだとしたら、これ以上の書き手冥利はありません。

そしてそれをわざわざ電話で報告してきてくれた女将さん(1回目は不在着信。どこか分からずほっておいたらまたかけてきた)の気持ちも。

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(コロナ禍中のため、マスク姿でパチリ)

昔ながらの銭湯なんて、もう手垢のついたネタかと最初は思いましたが、まだまだ光を当てるところがある……というか当てなきゃいけないんだなと。

まだ連載始まって3回目ですが、早くも手応えを感じています。

さて、次はどんな「昭和」を探しに行くか。

「こんな昭和があるよ」というアドバイスがあれば、ぜひ!




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