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「ああ、今日は疲れたなぁ。ここ最近、仕事が忙しくてよく眠れてないし。……そろそろ心も体も限界かも」……そんな気持ちを見透かしたかのように、スマホのAIアシスタントが自動的に起動してこう言う。

〈心身の健康レベルが下がっています。そろそろ骨休みに温泉でもいかがですか?  今月の仕事のスケジュールと泉質、そしてアナタの好みから選んだオススメの温泉旅館は……〉

近い将来、こんなやりとりがスマホと人間との間で行われるかもしれません。

そう思ったのは、先日「AI人工知能と温泉」というテーマの講演を聞いたから。

健康と温泉フォーラム〉というNPO法人の月例研究会として、東京・上野の東京文化会館で行われました。

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講師は、理学博士の桜田一洋さん。

バイエル薬品の執行役員などを務めた後、2008年よりソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、2016年からは理化学研究所医科学イノベーションハブ推進本部・医科学イノベーション推進プログラム副プログラムディレクターを兼務しているとのこと。

医療とAIなどのIT技術をつなぎ合わせ、これまで解決できなかった医学の問題を解決しようというお仕事をされている方です。

この方によると、発達障害など心の問題には「温泉」が良いのだそうです。

というのも(以下、かなりザックリ説明すると)そうした障害のある人は、見たり聞いたりという感覚が敏感すぎるため、他者や世の中とうまく同調できない、相手と理解し合いづらいのだそう。

ですが、温泉は難しい理屈抜きに、「お湯につかって気持ちい良い」という状況を共有できる。

また、親子で背中を流し合うようなシンプルなコミュニケーションも、心を通じ合わせるのには適しているのだそう。

そうしたことを先生は「同期」とおっしゃっていました。

<温泉療法の意味>
・外部環境(温泉)と身体の同期
・親子の行為(背中を流し合う)の同期
→難しい文脈抜きに気持ち良さを共有できる

温泉は単純に気持ちがいい、それは心と心が違う者同士でもわかり合える、だから二人とも根本は一緒じゃないか……このように心で相手の心を思うことを「メンタライジング」というのだそうです。

これは発達障害の有る無しは関係ありませんよね。

初めて会う他人でも、同じ風呂に入っていれば、なんとなくわかり合える気がする。だから「どこからですか?」みたいな会話が自然と生まれる。どんな人の心も同期(シンクロ)させ、メンタライジングさせる力が、温泉にはあるのでしょう。


そうした温泉の力をもっと科学的に明確化できれば、「単に気持ちい、癒やされる、ということの上のステージに行ける」と先生はおっしゃっていました。ぜひそうなって欲しいと思います。

そして、どういうタイミング、シーンで温泉を活用すべきかということについては、やはり心身症を発症してからでは遅く、そうした不調を防ぐ「予防」としてが最適であろうと。

ただし、予防のために、忙しい時間をぬって温泉に行くのはハードルが高い。

そこでAIの出番です。

例えば、アプリなどを活用して、様々な情報を解読解析(例えば、ツイートで「眠い」とか「しんどい」なんて言葉を自動的に拾い出したり)して、その人の健康状態を予測。”危険水域”と判断したら、アプリが「そろそろ温泉でも?」といざなってくれるシステムが有効ではないかとのことです。

なおかつ、どの温泉に行けばいいのか、行ったらどんな入浴方法がいいのかまで、その人のパーソナリティー情報に合わせたソリューション= 湯治方法を提案してくれるとベスト!

そんなアプリ、すぐにでもできそうですけどね。

誰か作ってくれないでしょうか。

自分で作ってみる?(興味ある人連絡を!)

さらに、心身と温泉の関係について、面白いことをおっしゃっていました。

キーワードは「リズム」。

温泉には、滝湯、打たせ湯、人が入ることにより生まれる小さな湯の波などいわゆる「1/fのゆらぎ」のようなものにあふれているのだそう。そこに身をおけば、心が休まるのは明らかですよね。

さらに生活リズム。旅館では早く寝るとか、朝早く起きてご飯を食べるとか規則正しく行動することで、乱れた生活リズムを整えるのに役立つといいます(夜遅くまで宴会では逆効果でしょうが…)

もちろん、温泉成分の要素は大いにあるでしょうし、温泉の湯の肌触りが人間の知覚に与える影響、見知らぬ他人同士でのコミュニケーション、外の空気を感じながらの入浴、遠くへ行くことへの転地効果、さらには、あらゆる生命の根源が温泉にある(かつて地球全体が凍った時に、温泉のある所にだけ生命が生きながらえた!らしい)ことから来る壮大な懐かしさ……等々、科学の目で掘り下げられることは盛りだくさん!

どうしても温泉というと、「気持ちいい」とか「癒やし」とか、”雰囲気”で語られがち。でも雰囲気は他人には伝わりづらいです。温泉がどんなに気持ち良い、癒やされると言っても、気持ちよさや癒やされたい気持ちは人によってマチマチだからです。

だけど、こうした科学の目と、AIという曖昧さを補ってくれるツールがあれば、今まで以上に温泉に足を向けさせることができるかもしれない。

そうすれば、人はより健康になって、医療費も減って、世の中も活き活きと動き出す……そんな未来が来ればいいな──

と、たまには僕も真面目なことを考えるのですよ、というお話でした。




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※このブログは著者個人の主観と感想であって、桜田氏、特定非営利活動法人健康と温泉フォーラムの考えを代弁するものではありません。