※2020・1・13更新

2018年9月、沖縄の伊江島に取材で行ってきました。

島といっても、沖縄本島南部の友部港から、フェリーでたった30分。

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ビーチからは有名な「美ら海水族館」がある海洋博公園が目と鼻の先。




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(向こうの島に見える白い建物が美ら海水族館?)

「夏は海洋博公園で行われる花火がよーく見えるんですよ」とは地元観光協会の人。

東京なら、浅草から隅田川の向こう側のスカイツリーが「よく見える」という距離感でしょうか。

つまりめっちゃ近いのですが、リゾート感はハンパない。

とにかく海が青い!

その透き通る青さは「伊江ブルー」と呼ばれいてるほど。


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あまりに青いんで、「ビーチボーイズ」の反町隆史気取りで浜辺を歩いちゃいました。


(知らないヤングはググッてね)

そして自然が豊か!

ハイビスカスとバナナが普通に道路の脇に自生してるし、海岸沿いを歩けば鍾乳洞や断崖絶壁などの絶景がずらり。


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本島は都会な感じですが、ちょっと船で渡るだけで、こんなにリゾート感あふれる島に来れるのだから、さすがは沖縄!って感じです。

そんな島で作っているのが、地元産サトウキビ100 パーセントのラム酒です。


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まさに南の島にピッタリです。

伊江島産のラムだから「イエラム サンタマリア」。

その製造工場を見学させてもらうことができました。


≪酒づくりに必要なアレがなかった……≫

その名も「伊江島蒸溜所」は、サトウキビを原料にしたバイオエタノール工場を、7年前にラム酒工場にリニューアルしたものだそうです。

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そもそもなぜ伊江島でラム酒なのか?

沖縄といえば泡盛でしょ?!

でも伊江島には泡盛の酒蔵はありません。

人口が少ないから? 

いえ、それには伊江島独特の気候風土が関係しています。

直径わずか9キロほどしかない伊江島には、実は川がありません

川がないということは「水が無い」ということ。

1〜2ヶ所、湧き水が湧く場所はありますが、とても十分な量は確保できません。

今でも生活用水のほとんどを本島から海底ホースを使って送って来ているほどです。

なので伊江島では電気代よりガス代より水代が高いくらい。

洗車などはもっぱら天水(雨水)に頼っているそうです。

川が無いと流れ出した砂や泥で海が汚れないのでダイバーにとっては「天国」なのですが、生活するにはやっぱ不便です。

土も水はけが良すぎるので米が作れませんでした。

泡盛づくりに必要な水も米も無い。

だから伊江島には泡盛がないんですね。

(「伊江島」という名の泡盛はありますが、これは島外の酒蔵で作ってもらったものです)

だけど何とかして島で酒をつくりたい!

それは経済的な理由もあるでしょうが、一番は「プライド」だと思います。

全国を旅して思ったのは、自分の村に酒蔵があるということは、最高のステイタスだということ。

酒を作れるだけの農業生産、生産技術、消費人口があるという「誇り」なのです。

なので、酒蔵のある地方の村に行くと、地元の人はもうそればっかりしか飲まない!というのはよくある話。

ま、そういうわけなので、自分の島の酒を作りたいというのは島民の方々の長年の夢でした。

そんな伊江島に酒づくりのチャンスが!

サトウキビからバイオエタノールをつくる施設の稼働が終わることになり、”跡地をどうするか”という話になったのです。

そこで浮かんだのが、「サトウキビで酒を作れんだろか?」ということ。

サトウキビを原料にした酒といえば「黒糖焼酎」が有名ですが、酒税法で、黒糖と米麹を原料にして焼酎をつくることができるのは奄美諸島だけです。

だったら、原料が一緒の「ラムだ!」ということでラムづくりが始まったのです。

(ちなみみにラムと黒糖焼酎は同じサトウキビが原料ですが、仕込みに米麹を使うのが黒糖焼酎。昔の黒糖焼酎の製法はラム酒と一緒だったそうですが、戦後奄美諸島が日本に返還される際に税率が高くなってしまうことを回避するため、米麹を使うことで焼酎として認められるようにしたのだそうです)

で、2011年から現在のラム蒸留所が稼働を始めたというわけなのです。

≪地元らしさにこだわった酒づくり≫

お酒の原料にできるくらいの大きさにサトウキビが育つのに1年半。

収穫は毎年1〜3月頃に行います。

こちらの機械でサトウキビからサトウキビジュースを絞り出します。

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約30トンのサトウキビから800リットルのサトウキビジュースがとれるそうです(絞りかすは牛のエサになるそう)。

糖度は17〜18度。

果物で糖度が18度あるのは、ぶどうやメロン、完熟柿くらいですから、相当甘い!

ちなみに、世界の96%のラムは、サトウキビジュースから白糖を精製した後の「廃糖蜜」から作られています。

その方がコストがかからないですし、保存が簡単なので使い勝手がいいからです。

ですが、伊江島で作っている砂糖は黒砂糖だからそもそも廃糖蜜が出ませんし、せっかくサトウキビの産地なのだから「新鮮なサトウキビジュース100%で作ろう!」ということになりました。

これを「アグリコール製法」といい、世界のラムのたった4%という貴重な製法です。

なぜ4%しかないかと言うと、前記したようにコストがかかるのと、「サトウキビジュースは足が速い」から。

しぼったままのサトウキビジュースは、15分で菌が繁殖して腐るのだそう。冷蔵でも1週間で発酵し、爆発してしまうのだとか。

早く安くたくさん作りたければ、そんなめんどくさい原料、使いたくないですよね!?

こちらの蒸留所では、サトウキビジュースを絞ったらすぐ濃縮 してシロップにする(濃縮)ことで、保存しています。

この時点で、サトウキビジュースは1600リットル→300リットルに減ります。

そして、使う時には濃縮還元して発酵作業に入ります。

サトウキビジュースは元々”糖”なので、日本酒などのようにデンプンを麹などで”糖化”させる必要がありません。

簡単に言うと、最初から酵母(アルコール発酵させるための微生物たち)のエサ状態なのです。

なので、酵母入れるとすぐ発酵が始まります。

さらに沖縄は暑いので、発酵のスピードも速い。

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3日でアルコール度数8パーセントくらいの醪(もろみ=お酒のもと)ができるそうです。

で、最終的に醪のアルコール度数が9パーセントにくらいになったら”蒸留”の作業に入ります。

この蒸留という作業が、日本酒やビールとは違いますね。

言ってみれば、日本酒は蒸留する前の米焼酎、ビールは蒸留する前のウィスキーにというわけです(かなり強引だけど)。

なので、蒸留する前の醪も立派なサトウキビ酒。

一口飲ませてもらいましたが、ちょっと草っぽかったですけど、なかなかオツな味でしたよ。


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(案内してくれた工場主任の浅香さん)

さて、蒸留にはご覧の「単式蒸留器」を使います。

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効率的な連続式蒸留器より、原料の風味が出やすいと言われています。

この蒸留によって水分が飛ばされ、アルコール度数は70%にまで高まります。

使用するのは、雑味やサトウキビの皮の油が出てくる抽出直後と抽出終了前をカットした、いわゆる”中汲み”だけ。

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ためしに、雑味の出ている方のアルコールの香りをかがせてもらったらのですが、……かなりエグい!

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表面には油も浮いていました。こういうものを丹念により分けるわけですね。

そして、水で薄めてアルコール63度に整え、ステンレスタンクで一年休ませます。

そうすることで、より水と馴染むのだそう。

で、ステンレスで1年たったものを瓶詰めすると、すっきりした飲み口が特徴のホワイトラム(同蒸留所では『サンタマリア・クリスタル』という商品名)になって市場に出ます。

特別にタンクから”直汲み”をちょぴり味見。

まだまだ角はありますが、スッキリとした美味しいラムでした。

でもアルコール度数が高いので、けっこう酔っぱらってしまいました。


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≪熟成にはあの名ウィスキーの樽を使用≫

さて、さらにここからもうひと手間。

ウイスキーの廃樽に詰めて熟成させます。

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使っている樽は、名ジャパニーズウィスキー「余市」の廃樽。

元々この蒸留所がアサヒグループのバイオエタノール工場だったので、その縁でアサヒグループ参加のニッカ余市蒸留所とは付き合いがあるのだそう。

樽に詰め、樽貯蔵庫で3年熟成したものがダークラム(同蒸留所では『サンタマリア・ゴールド』という商品名)になります。

しかし、この貯蔵庫、むちゃくちゃ暑い!

聞けば、空調を全くしていないのだそう。

というのも、「伊江島の気候で熟成させたい」から(あと、熟成も早く進んで効率的だし、空調費もかからないから、という裏の理由もこっそり教えてもらいました)。

その分、気化するのも早く、1年に10%も減って行くそうです。

そのように熟成樽からお酒が自然に減っていくことを「天使のわけまえ」と言いますが、案内してくれた主任の浅香真さんいわく、「伊江島の天使は大酒飲み」。


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≪ラムだって立派な地酒≫

ところで、こちらで作られたラムはなぜ「サンタマリア」という商品名がつけられているのでしょう?

それは、島の花「テッポウユリ」が由来です。

元々ヨーロッパでは、白いユリが聖母マリアの花「マドンナリリー」として愛されてきましたが、江戸時代後期から明治時代にかけて日本からテッポウユリが輸出されると、その可憐さがヨーロッパの人たちの心をつかみ、元々のマドンナリリーにとって変わりました。

つまり、聖母マリアの花が咲く島で作られているから「サンタマリア」なのですね。

樽や瓶のマークも、海に囲まれた伊江島の周りにテッポウユリをあしらったデザインです。

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そんな、伊江島のラム「サンタマリア」は、年間およそ7000リットルを販売。

3ヶ月に1回ずつ、せっせと手作業でラベル貼りをしているそうです。

1瓶700ミリリットルくらいだとすると、何本でしょうか。たかがしれています。

なので貴重なお酒。

現在、フランスとイギリスでも販売。

他の国からも「売ってくれ!」という依頼が来ているそうですが、とても間に合わないので丁重にお断りしているそう。

ただし、国内の個人向けにはネット通販もしてます。





「わしたショップ」でも買えますが、ここはぜひとも伊江島に来て飲んでもらいたい!

地元産100%の原料を使い、地元の気候で作ったこのラムは立派な地酒。
有名ソムリエの田崎さんも言ってますが、地酒は地元の空の下で、地元の料理を食べながら飲んでこそからです。

ま〜、贅沢。

でも、妙なプレミアがついた何万円もする酒を、都会のビルの中でちびちび飲むよりも、よっぽど健康的だし、お酒のためにもなると思うわけですよ。

もちろん、現地に行けば、それ以外の楽しみもありますしね。


(現地で飲めるお店は後日紹介しますよー)

さてさて、こちらは工場見学も無料で1人からOK(要予約)。

三重から移住した工場主任の浅香さんが、わかりやすく案内してくれますよ。

ただしスタッフ不足で大忙しなので、見学対応できないこともあるそうです。

そしてそして、なんと試飲が無料!

なのでまたまた酔っ払ってしまいました。


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(同じサトウキビから作ったシロップをちょっと混ぜると、むちゃくちゃ飲みやすくなる!でも後が怖そう・笑)

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(酒蔵では酒は買わん!と決めているのに……ついつい蒸留所限定の無濾過の原酒を購入)

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(ホワイトラムとシロップのセットも販売。これはお酒がちょっと苦手な人にもオススメ。シロップはノンアルコールなので、普通にアイスにかけたりしても美味しい)

この見学会の一部始終をYouTubeで公開中!

コチラからどうぞ!
↓↓↓



日本酒の酒蔵見学はよくありますが、国産ラムの蒸留所見学というのは珍しいのでは?
しかも1人から無料で!
こんな機会はめったにありません。
酒好きならこのためだけに来ても元がとれるほどです。
イエラムが飲める居酒屋もたくさんありますし、昼はビーチや史跡めぐりも楽しめます。
伊江島でラムツーリズム。
これ、盛り上がってくれないかな〜!


伊江島蒸留所(株式会社伊江島物産センター)
県国頭村伊江村字東江前1627-3
TEL.0980-49-2885 FAX.0980-49-2886
http://ierum.ie-mono.com/



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