昨日は江古田で「ディープ酒場」のリサーチ。

某夕刊紙の連載のためですが、ただの流行りのレトロ酒場ではありません。

よく商店街の一角に”なんなの?ココ”という怪しい雰囲気の店ってありますよね? 怖いけどちょっと入ってみたい、そんな店を探して、潜入取材するというものです。

面白いんだけど、そういう店って雑誌や食べログにはほぼ載っていない。だから見つけるのが大変。

口コミか実際に街を歩いてみて探すしかないので、自分の嗅覚が頼りなんです。

さらに歌舞伎町や赤羽など大きくて有名な飲み屋街は手垢がついているので、私鉄沿線の小さな飲み屋街に足を運ぶことになる。

というわけで昨日は、たまたま自宅作業していたこともあり、家から近い江古田をパトロールしたのでした。

日大芸術学部の周りは結構垢抜けていますが、神社の裏辺りにある昔ながらの商店街には、 まだいくつか渋い飲み屋が残っていました。

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(江古田駅北口でてすぐの浅間神社。境内の大きなケヤキが立派)


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(奥には立派な富士塚が。ただし普段は登れない)

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(富士山と関連が深い浅間神社は都内も数多いけど、こんな絵馬は初めて)


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(神社の近くには昔ながらの商店街が。かつては”市場”という名のマーケットがあったので「市場通り商店街」)

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(渋い飲み屋も幾つかありました)

すると午後3時からやっている立ち飲み屋を発見!

建物のボロっちさ、油性ペンの手書きのメニューの安っぽさなど、もう怪しさプンプン。ここにしよう!

恐る恐る入ってみると、中にはおばちゃん客が4〜5人ばかり。

一瞬、健康器具のねずみ講の集まりに間違って飛び込んだのかと思いましたが、どうやらそうじゃないようです。

カウンターの中には白髪の女性。おそらくママさんですが、ネグリジェみたいなペラペラの服がカジュアル過ぎ^_^。

一見客なんてめったに来ないんでしょう。僕がいきなり店に入っていったら、店内がにわかにざわつきました。

全員の視線が一気に僕に集中。値踏みを始めます。

”こいつは自分たちのテリトリーを乱すやつか?いなか? ”

こういう時、 あまりヘラヘラするとかえって怪しまれます。

あと、聞かれてもいないのに「ちょっと目の前を通りかかって…」なんて言い訳するのもわざとらしい。

あくまでも自然に、近ごろは”こういう変わった店が好きで色々飲み歩いてる”という風を装っています。

さて、今回もさりげなくカウンターの一席に滑り込むことに成功しました。

まずは瓶ビールを注文。手酌でちびちびやりながらおつまみのメニューや、周りのお客の会話をチェックをするのがいつものパターンです。

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が、こういう時、いきなり店主に店のことをあれこれ聞くと怪しまれます。

店のことについて聞きたければ、まずは常連客に探りを入れるのが正解。

というのも、客同士の自然な流れで聞けるし、常連である以上この店が気に入っているわけですから、自分の気に入ってるものに対して聞かれれば悪い気はしないからです。そのうち店主も話に入ってくれば、もうこちらのものです。

今回もその手を使おうと、まずはとなりのおばちゃんに話しかけました。店の事を色々教えてくれるのはいいのだけど、肝心のママさんが他の客との会話に夢中で、一向にこちらの会話に入って来ません。

そのうちとなりのおばちゃん客の身の上話になりました。

そのおばちゃんは今年71歳。うちの母と同い年です。とてもそんなふうには見えず若々しい。 聞けば大きな野菜卸売会社の専務で、自前のビルも持っているということ。やっぱりお金と仕事があると老けないな〜。

さらに聞けば(というか勝手に喋る)、元々九州のいいところのお嬢さんらしく、50年近く前に東京に出てきて働いていた時、たまたま頼まれてアルバイトしていたスナックでご主人に出会ったのだそう。

田舎で医者との見合い話もあったそうですが、「医者は浮気するから」と断わり、「チビでブ男だけど誠実そう」な八百屋さんと結婚したのでした。

ただし当初は町の小さな八百屋に過ぎず、しかも近所に大きなスーパーができて経営の危機。

どうしよう?と家族が悲観するなか、「客が来ないなら自分から行くしかないじゃない!」と啖呵を切り、自ら営業に回ったのでした。

その方法がまた大胆で、繁盛してそうな店を見つけては、客のふりをして料理を食べ、こっそり裏に回ってどんな野菜を仕入れてるかチェック、夫に相場より安い価格で見積書を作ってもらい、翌日スーツとハイヒールに身を包み、愛車のミニクーパーで乗り込んだそう。

いきなり店の前に小さな変わった外車が止まったかと思ったら美女(たぶん昔は相当だったと思う)が降りてきて「野菜買ってくれませんか?」ですよ。呆気にとられたでしょうね。でもインパクトは大。しかも安い。面白いように注文がとれたそうです。

そんなふうにして夫婦で汗水たらしながら、店を大きくしたのだそうです。
 
今はほとんど息子さんに仕事を任せているそうですが、「手が足りない時は私も配達してるのよ、BMWで。ハハハ(笑)」──って豪快すぎ!

そんなこんなでと隣のおばちゃん客とばかり盛り上がってしまい、 肝心の店の取材ができません。

そのうち、私が「近くの環七沿いに住んでるんですよ」と言ったら、「昔馴染みの飲食店のマスターがその辺りに独立して店を出したんだけどまだ一度も行ったことがない。よかったら一緒に行かない?」と誘われました。しかもその店は私もよく行く焼き鳥屋! 

ということで、初めて会った71歳のオバチャンにナンパされ、二人で仲良く焼き鳥屋に行きましたとさ。

こういう出会いがあるから酒場巡りはやめられません。

江古田の店は改めてもう一度足を運ぶことにします。