島崎藤村ゆかりの長野県・小諸市をめぐるツアー。

宿は、藤村を小諸に招いた師・木村熊二(小諸私塾創設者)の別荘「水明楼」の真下にある温泉旅館「中棚荘」です。
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明治31年創業。

現当主の富岡正樹さんで5代目。

明治30年築の大正館、平成4年築の平成館からなる、木造二階建ての小体な和風旅館です。
 
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こちらは平成館の部屋の中。ちゃぶ台がいい味出してます。

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でもベッドのある部屋もありますので、足の不自由な方や外国人も安心。

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冬はぬくぬくの"おこた"が最高。熱燗を一杯やりながらウトウト……なんて。

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浴衣もなかなか味がありますよ

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この「中棚荘」にも、藤村は何度か足を運んだようで、『小諸なる古城のほとり』という詩の中に、"千曲川いざよふ波の岸近き宿に"と書いています。

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藤村が泊まったという部屋は大正館にあります。

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部屋には「破戒」の一節を記した掛け軸が。角部屋で、なかなか見晴らしがいいです。

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湯治用の小さな部屋も味わいがあります。

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こういう、古いコップ入れとか、たまんないすよね。

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作り付けの鏡台。

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小さいけれど二間あり、掛け軸もあります。ミニマルな感じが、日本らしくていいですね。

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娯楽室。ここも味があります。

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洗面所。タイルがいい感じですね。

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今度泊まるなら、絶対大正館に泊まりりたいと思いました。

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さて、こちらの宿の名物は2つあります。

1つ目は美味しい料理とワイン。

古民家を移築して作った離れの食事処「はりこし亭」では、肉や野菜などの具が入った鍋に直接そばを煮かけて食べる"お煮かけそば"などの郷土料理が楽しめます。

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こちらが「はりこし亭」

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建物は登録有形文化財です。

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入り口を入ってすぐ。立派な招き猫とダルマがお出迎え。

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大きな梁が立派ですね

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天井も高い!

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こちらは「花かご膳」。
地元の素材を使った、ミニ会席です。
今回の内容は

・ひたし豆旨煮
・きのこ南蛮漬け
・信州タローぽーく もつ煮
・はりこし万頭
・信州サーモン紫蘇揚げ
・十穀米ご飯
・手打蕎麦
・デザート

料理長が京都で修行してきた方だそうで、なかなかいい味付けでした。

特に気に行ったのは「はりこし万頭」(写真左上)

小諸地方で昔から食べられている郷土食で、そば粉をぬるま湯でこね、ネギやショウガを入れ、味噌で味付けして焼いた、要は蕎麦饅頭です。

天井を渡す梁(はり)を超(こ)すくらい高く放り上げて作ることから、はりこし万頭と呼ばれるとか。

島崎藤村もこの"はりこし"を、詩の中で何度も登場させているそうです。

もちろん、ここ「はりこし亭」の名前の由来にもなっています。

もっちりとして、しょっぱさの中にそばとショウガの風味があって、酒のつまみに最高でした。


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こちらが、信州名物「お煮かけそば(うどん)」。

最初、言葉だけ聞いた時は、"鬼かけ?"と思いましたが、漢字にすると、な〜んだ、という感じ。

鍋に"煮かける"ことから、こう呼ばれるそう。

また、そばを鍋に"投じる"から、「投じ蕎麦」ともいうそうです。

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こちらは、「彩り野菜蕎麦」。
季節の野菜を添え、「つゆ」「ごま」バジル」の3種のタレにつけて食べます。
いわゆる、サラダパスタですね。
特にバジルのタレが美味しかったです。

このほかに、信州名物の「くるみそば」も出ましたが、こちらも美味しかったです。
ただ、くるみダレはもうちょっと濃い方が、個人的には好みでしたが。

ちなみに、中棚荘では、そば打ち体験もできます。

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お手本を見せる料理長

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材料はこれ

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こねるとこんなふう

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切って……

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完成!

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それを茹でて食べさせてくれます。

どんだけ蕎麦食べてんだ〜と思うでしょうが、そば打ちは翌日に体験したものです。念のため。

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夜は、見学に訪れたマンズワイン小諸ワイナリーで仕込んだ宿オリジナルのワインと、それに合う和風のフルコースを堪能しました。
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赤はメルロー、白はシャルドネ。
なかなか美味しかったですが、まあ、1本3000円ですから、当然です。

さて料理ですが……

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【先付け】イカやエビの酒煎りを雲丹チーズで和えたもの
【お造り】鯛の松皮造り(鯛の皮を炙るか湯せんして松の皮のようにしたもの)
どちらもとても美味しかったですが、海なし県の長野の山の宿なら、信州サーモン(厳密にはサケじゃなく川マスのはず)のお造りとかの方が、県外からの客としては嬉しかったかな……。

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"中棚荘"の文字入りグラス。

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【焼物】甘鯛、平茸、レンコン、粟麩などのほうば焼き。こういうのは雰囲気があって嬉しい。

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【鍋物】鶏肉を酒粕で煮た鍋。これも美味しかった。これは日本酒だな。

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【お凌ぎ】揚げそばがき。上に乗っているのは梅干し。

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【温物】海老芋とあん肝の上に煎り豆腐を乗せ、ポン酢をかけたもの

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【揚物】秋刀魚紫蘇揚げ

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【食事】釜炊きご飯。期待が膨らむ!

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ただし、信州サーモンの炊き込みご飯。うーん、これも単に白いご飯の方が、個人的には嬉しかった……。

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【デザート】は焼き林りんごとりんごアイス。

途中、うるさいことも書きましたが、ボリュームも味も大満足!
山の中の小さな宿でこれだけのものが食べられるなら、文句なしでしょう。

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もう一つの名物は「風呂」です。

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少し離れたところにありまして……

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こんな風に、畳敷きの脱衣所と洗い場、湯船が繋がっています。

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平成10年に掘削して湧き出た湯は、正真正銘の天然温泉(アルカリ性単純温泉)。

湧出量が毎分250㍑と豊富なため、カランやシャワーも温泉です。

そのため、"髪がしっとりする"と女性客に好評です。

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風呂上がりは書斎風のラウンジでまったり。
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薪ストーブがあり……

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自由に火をくべることができます。

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これが着火剤。蕎麦ガラに油を染み込ませたもの。

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これを使うと……

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簡単に火がつきます。

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自然の火を見ると落ち着きますよね……。
ウィスキーでもちびちびやりながら、藤村の本のメージをめくったりしたいですね。

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こうして小諸の夜は更けていきました……。

翌朝、改めて風呂に行きました。

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朝日に照らされた露天風呂。

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内湯では、10月から5月までは信州産リンゴを湯に浮かべた「りんご風呂」が楽しめます。

以前は木の浴槽だったのですが、最近、石の風呂に変えてしまったとのこと。
そのため、湯が真っ黒に見えてしまい、せっかくのリンゴが、写真的にあまり映えません。
ちょっとこれは残念でした。

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ものすごく充実した朝ご飯

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大正館。昔の玄関。

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「水明楼」にも訪れてみました。

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藤村はこの場所がお気に入りだったようで、『千曲川のスケッチ』に、

「水明楼にくる度に、私は先生の好く整理した書斎を見るのを楽しみにする。そればかりではない、千曲川の眺望はその楼上の欄によりながら、ほしいままに賞することが出来る」

と記いています。

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 中です

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洗濯場、炊事場でしょうか。


今は二階の窓から、少〜しだけ千曲川が見えるだけ。
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手前の、何の味気のないアパートが、風情のある景色を殺しています。

もったいない。

観光客を呼ぶのに、お金をかけて何かを建てる必要はありません。
もっと 「風情」というものを大事にするだけでいいと思うんですけどね〜。
ま、世の中には、そういうのどうでもいい、という人もいるわけで……。

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最後は家族総出でお見送りしてくれました。
そう、こちらは、家族経営。
とても心温まる、山あいの宿でした。


【中棚荘】
http://nakadanasou.com/



※データは取材時のものです